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米国個人所得税確定申告シリーズ(6)国籍離脱税(Expatriation Tax)

03.22.2023 | カテゴリー, Tax

シリーズ第6回目はアメリカ国籍離脱税(Expatriation Tax)についてです。米国市民・長期永住権保持者が市民権・永住権を放棄する場合に、アメリカ国籍離脱税の対象となる可能性があります。ここでの長期永住権保持者(Long Term Resident)とは過去15年の内、8年以上永住権を保持していた場合が該当します。1年の中で1日でも永住権を保持していた場合、その年は1年と数えます。

市民権または長期永住権保持者で、以下の3つの条件の内、いずれか一つに該当する場合に、国籍離脱税の対象者(Covered Expatriate)となり、放棄年の最後の確定申告書にIRS Form8854を添付して提出することが義務付けられています。

なお、以下の3つの条件を満たさず、国籍離脱税の対象とはならない市民・長期永住権保持者についても、Form 8854の提出が必要となります。この様式を提出しない限り、移民法上では放棄となっていても、税法上では市民権、永住権を放棄したと見なされません。またこの書類を提出していない場合、$10,000の罰則が課される可能性がありますのでご注意下さい。

3つの条件は下記となります。

  1. Tax Liability Test: 過去5年間の連邦所得税の平均年間所得税額が$178,000(2022年度)を超える場合
  2. Net Worth Test: 放棄日時点の全世界での個人純資産額が200万ドル以上の場合(株式、不動産、401(k)、IRA等も計算に含め200万ドルを超えているか、という事を判定します)
  3. Certification Test:放棄直前5年間で、連邦所得税の申告納税義務を果たしていることについて宣誓できない場合(例:日本の金融口座を開示していなかった場合など)

国籍離脱税は基本的にMark to Market(時価評価)の考え方に基づくもので、市民権・永住権を放棄する前日に全所有資産を時価で「売却」したものとみなし、そのみなし売却益(キャピタルゲイン)に課税される制度です。ただし$767,000(2022年度)の控除が認められますので、この控除枠を超えた売却益にのみ課税されます。

また全ての資産にMark to Marketの考え方が適用されるのではなく、異なる税率・規則が適用される資産もあります。以下のような資産がこの対象となります。

  1. Deferred Compensation(適格課税繰延報酬):例えば401(k)が該当します。Covered Expatriateになった場合は所定のForm W-8CEの提出が必要です。その結果、日米租税条約に拠る減免措置が無くなり、401(k)のDistributionの時点で30%の源泉徴収税の対象となります。なお、この30%源泉は米国への税務申告により還付が可能です。
  2. Specified Tax Deferred Account(課税繰延報酬):例えばIRAが該当します。放棄日前日に分配金を受け取ったと仮定して、放棄する年の税務申告時に全額所得として申告し、通常税率で納税します。この場合10%のペナルティ加算はありません。
  3. Interests in Nongrantor Trusts(他益信託に対する持ち分):信託からの分配金等です。上記Aと同じように租税条約の特典である源泉税徴収削減を請求する権利を放棄する事により、30%の源泉徴収税の対象となります。

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