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日米租税条約の一部条例の改正議定書への署名後の動向について

01.16.2017 | カテゴリー, Tax

2013年1月24日に日米が日米租税条約の一部改正について合意に達し、改正議定書に署名を行ったということをまだ覚えていらっしゃる方もおられることと思います。特に米国現地子会社にて日本の親会社からの借入金がある場合、現行租税条約では支払い利子に対して10%の源泉が義務付けられておりますが、改正される租税条約では0%となるため、この一部改正される租税条約の発効を首を長くして待っていらっしゃる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ところがご存知のように合意に達した後3年以上を経過してもこの改正された租税条約が一向に発効されるという報道が出る様子がございません。実際、現状は一体どのようになっているのでしょうか。租税条約の現在についてお話をさせていただきます。

租税条約の批准過程

租税条約は以下の過程を経た上で両国から批准され発効されることになります。

  1. 合意公文への署名を受け国内手続きへ入る。
  2. 各国の国会・議会で承認を受ける。(国内手続き)
  3. 批准書を交換
  4. 発効

 

という手続きとなっております。いま現在どの段階にいるのかというと米国では2番の国内手続きの段階で止まっているというのが現状です。米国では国内手続きはまず上院議員のCommitteeでの審議から始まる事になります。このThe Senate Foreign Relations Committeeで公聴会が開かれ、そこで承認されたものが上院議員会議にかけられることになります。そしてその上院議員会議において全員一致による賛成または3分の2以上の賛成多数により承認された後に米国大統領への署名のために改正議定書が回されることになります。しかし実際には慣習上全員一致による賛成により承認されるとのことのようです。今まで、上院議員会議に回された租税条約が承認されなかったという前例はないとのことです。しかし現在時点で上院議員会議でその審議が止まっているのが実情となっており、しかも上院議会で承認されるという動きさえ現在は見えておりません。この停滞の要因となっているKey personは、ケンタッキー州選出上院議員のRand Paulです。

 

ケンタッキー州選出上院議会議員Rand Paul

 

Rand Paul氏、Randal Howard Paul、は内科医でありそして共和党所属の2011年以来のケンタッキー州選出上院議員です。彼の父親、Ron Paul氏,もまた元テキサス州選出議員であり、父親の選挙を手伝ったことが出馬のきっかけにいたったようです。彼の政治信条はリバタリアンであるといわれ、またThe Tea Party 運動のサポーターでもあり、そしてそのThe Tea Partyの応援を受け当選したといわれています。彼が当選して以来、日米租税条約のみならず、他の租税条約も上院議会により承認されたことはないとも言われています。それまではルーティン的に承認されていたものが、彼の出現により突然停滞してしまったということです。日本との租税条約のみならず他の租税条約が通過しない理由は彼が強行に改正された租税条約の承認に反対していることが大きな原因といわれています。一体彼はどのような理由により提出された租税条約の承認に反対しているのでしょうか。その主な理由としてオバマ政権が2010年以来推し進める通称FATCA, Foreign Account Tax Compliance Act, に遠因があるといわれています。

 

FATCAおよび改正租税条約第26

 

FATCAは本来米国市民および米国居住者が海外にある資産を通じて得た所得を隠蔽することにより米国での租税回避を行うことを防ぐために提出された法案です。この法案は単に米国の金融機関・銀行に対して米国政府に米国市民・居住者が所有する海外資産報告を行うよう求めるのではなく海外の金融機関・銀行にまでその範囲を広げております。そのため米国政府は個々の海外金融機関・銀行と情報開示の合意書を取り交わすことになっております。海外の金融機関・銀行を通じて投資をしている米国市民・課税対象米国居住者の洗い出しを行い、租税回避を防ごうとしています。この一連の動きの中で海外金融資産報告書が強化され、従来のTDF90-22.1という報告書がForm 114と変わり、そして個人所得税申告書、Form 1040、にて米国外に一定額以上の金融資産を持つものはStatement of Specified Foreign Financial Assets、Form 8938、を添付して提出しなければならなくなりました。さらに米国子会社より海外親会社へ金利、配当やRoyaltyの支払いを行う場合に事前に海外親会社より提出をうけていた租税条約適用による軽減税率の適用証明書、Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United State Tax Withholding,のフォームが変更となり、個人用そして企業用との2つに分かれ(Form W-8BENとW-8BEN-E)、さらに複雑な内容を記載することとなっております。これもやはり租税条約を利用した租税回避を防ぐ目的で、FATCAの運用により改定されております。

 

上述しましたようにFATCAは米国国内法であるため海外の金融機関や企業に対して拘束力がありません。そのためオバマ政権はFATCAをIntergovernmental Agreementとしての性格を持たせることにより海外の金融機関・企業に圧力をかけることなります。そしてその効力を別の方面から援助するのが今回改定された日米租税条約の第26条となります。この第26条は以前からありましたが、改正において一新され情報交換における両国の義務が拡大されております。つまりFATCAを補強する為にこの第26条が一新されたということになります。しかしこの点がRand Paul氏によりもっとも問題視されている点でもあります。

米国憲法修正第4

Rand Paul氏によるとこの租税条約第26条の義務拡大は米国憲法修正第4条に抵触するのではという問題点を挙げています。この修正第4条は個人への不合理な捜査や押収の禁止となっております。Rand Paul氏は米国政府の要請により締結国の海外の政府から正当な理由もなく海外にある米国市民の資産が調査され、個人財産である情報が押収される危険性があると指摘し、よって修正第4条で保証された個人の情報保護に対して問題があるとしています。更に租税条約は2国間の締結となるため、米国が海外の金融機関や銀行などから情報を集めることができると同時に海外の政府もまた米国に対して非差別的な情報交換を要求できることを意味するとし、ひいてはこの改正条項が国家安全保障問題にも影響するのではと指摘しています。

2016年春にオバマ大統領はRand Paul氏を名指しで非難し、この租税条約はRand Paul氏が難癖をつけているようなものではなく、富裕層の所得隠しへの有効な対策だとし、未承認中の期間に多くの国益を損なっており、速やかに上院議員議会にて審議を進め承認するようにとのメッセージを出し非難しましたが、Rand Paul氏はこの租税条約は米国市民の個人の日常生活の情報に対して不当に海外の政府へ捜査権を与えるものとして批判をし、承認に応じる気配はありません。今後の進展はまだ今のところ不透明でどのような形で落ち着くのか予断が許せないのでしょう。ただ確実なのは当分は承認されることはないだろうということだけはいえると思います。

改正日米租税条約の概説

現在まだ発効されておりませんが、改正される日米租税条約は一体どのようなものか簡単に概説させていただきます。

利子所得・配当所得-源泉地国免税の拡大

現行 改正
配当 免税要件:持ち株割合50%超、保有期間12ヶ月以上 免税要件:持ち株割合50%以上、保有期間6ヶ月以上
利子 原則10%

金融機関等の受け取り利子;免税(例外)

原則:免税*

(財務省参考)

*但し売上等と連動する利子は10%

第20条-教授・研究員の報酬

現行この20条では教育機関に派遣された一定の要件を満足する個人の受取報酬が2年の間免税とされていましたが、改正後はこの第20条は削除されることになります。

第25条-仲裁制度の導入の義務化

現行の25条におきましても二重課税が発生した際の申し立てを行った場合に相互協議手続きを行い解決の努めるとしています。しかし改正後は「努力」を行うのではなく第三者の仲裁委員会により強制的に解決することを義務化するとしています。これは多くの場合、移転価格による二重課税が生じた場合の救済措置ということになると思います。

第26条-情報交換の強化

これに関しましては改正日米租税条約の現況において述べさせていただきましたのでそちらをご参照ください。

改正条約の発効ルール

財務省によりますと改正議定書は両国内にて承認手続きが完了した後に両国間で批准書を交換した日に効力を生じるとし、以下のように適用されるとのことです。

  1. 源泉徴収される租税に関しては、効力を生ずる日の3ヶ月後の日の属する月の初日以降に支払われる額
  2. その他の租税に関しては、効力を生ずる年の翌年の1月1日以降に開始する各課税年度

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